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脳震盪とImPACT test

私が現在関わっている選手に脳震盪になってまだ練習に復帰できていない子がいます。いわゆる脳震盪の症状である頭痛や吐き気はもうありません。症状が続いたのは、脳震盪が起こってから一日ほどで、症状がなくなってから、自転車による軽い運動、トレッドミルによる軽いランニングと進めてきました。いずれも頭痛などの症状が再び現れることはなくパス。でもその子はImPACT testというテストをパスできていないので、まだ復帰は許されていません。

脳震盪は脳の中で起こっていることなので、実際に見ることはできなければ、テストするのも難しいです。研究も進んではいますが、まだまだわかっていないことが多くある難しい症状です。そして、研究が進み、理解が深まるごとに復帰までにかける時間は長くなっています。そんな研究の成果から開発されたテストの一つがImPACT testです。このテストはコンピューターで受けることが出来、反応速度、言語記憶、形状記憶などの状態を計るのに使われます。シーズンが始まる前に一度受けて、「基準」データを記録しておき、実際に脳震盪が起こったあと、またこのテストを受けて、基準データと比べ、評価をします。

冒頭の子はこのテストにより記憶力がまだ基準レベルに戻っていないと判断され、復帰が許されていません。

ImPACTのほかにBESS(Balance Error Scoring System)と呼ばれるバランス能力を測るテストもやりましたが、こちらは問題なし。ImPACT test以外では彼女が「基準」値に戻っていないことを証明できません。だからこそImPACT testは重要なわけですが、選手からすればとてもフラストレーション。彼女は脳震盪受傷後、既に3回テストを受けましたが、いずれのテストでもVerbal memoryあるいはWorking memoryのどちらかでつまづきました。一度目はVerbalがダメ、二度目はworking、そして三度目はVerbal。二度目のVerbalも「基準値」と比べると低めですが、スコアは一応パスでした。

毎回テストを受けるたびにチームドクターと会って、話をしていますが、3回続けて失敗し、その選手はかなりフラストレーションがたまっていました。本人には実感できないものなので、理解するのが難しいのも理由の一つ。そして今日はオフシーズン中としては最後の試合があります。

今朝チームドクターと話している最中に彼女はだいぶ気持ちが高ぶって涙目に。現在レギュラーではない彼女は自分が試合に出れるチャンスの少なさを実感していて、オフシーズンの試合だからこそ彼女にとっては大きい。しかも今週は彼女と同じポジションのスターティングメンバーの子が家庭の事情で実家に帰っていて不在。シーズン中試合に出れる可能性が少ないことをわかっている彼女はこの機会にかけたいと必死に主張。(その真剣な訴えに私も少し感情移入してしまいました・・・反省。もちろん感情移入したからといって、復帰すべきだと思ったわけではありません。)

チームドクターも難しい表情。彼だってできることならプレーさせてあげたいと思っていましたが、ImPACT testが記憶力の欠陥を示している以上、医学的な立場から考えて彼女の復帰を承諾することはできないのです。そこで、彼が導き出した決断は、今日、彼女の授業が全て終わった後で、もう一度ImPACT testを受けるということ。厳密にはテストを受けるごとに24時間あけないといけないのですが、今日が今学期最後の試合なのでの特別措置です。これを問題なくパスすることができれば彼女の試合復帰を許すとの決断。果たしてどうなるでしょうか。

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ここまでは10月1日に書きました。そして下記はその後の追記です。

そして再テスト。
結果はまたも彼女の脳震盪前のスコアには達せず、不合格。チームドクターにも連絡して、結局金曜日の試合に彼女は出ることができませんでした。また少し涙目になり、落ち込んでいた彼女。かわいそうだけど、仕方ありません。足が痛くて走れないとか、機能的に動けないとか、そういうあからさまに本人が納得せざるをえない状況ではない分、理解するのが難しい。本人としてはもう何も問題を感じていなかったからこそ、余計にフラストレーションだったようです。でもそのためにImPACT testが編み出され、主観的じゃなく、客観的な回復を確認できるようにしているんです。

少し日にちを明けて本日10月6日。
彼女は再びテストに挑みました。結果は合格。受傷から12日後のことでした。
これでようやく彼女は練習を再開できます。ソフトボールの秋の公式練習はあと一週間しかないけれど、無事に復帰できることになって私としても嬉しいです。

今回のケースはとてもいい勉強になりました。
こうやって受傷直後から脳震盪を評価して、日ごとに再評価をしつつ経過を見守り、ImPACT test、BESS testを使って、復帰までの過程をみるという経験はなかったので、実際に起こる症状や経過を観察できたのは貴重でした。選手やチームドクター、選手の親とのコミュニケーションも含めて、やっぱり実際に「経験する」ということの大切さを実感した出来事でした。
by atmtk | 2010-10-06 02:32 | Athletic Training


NATA公認Certified Athletic Trainerです。あまり一貫性はないですが、日々のできごと、気付き、考えたことなどを記録しています。


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